推しが刃を握るなら

守備範囲が広すぎて息切れしているオタクです。

「燃えよ剣」公開間近!山田担出陣式

どうも皆さま、りらです!

いつも私のTwitterを覗いてくださっている方ならば、この時期に記事を出すということは、無論、あの話であろうと、お察しくださる、と思いますけれども(読点がキモいのよ)

沖田総司の話をするぞ

もう今、震えている。沖田総司、この字面に弱い。「田」の文字はけしからん。山田涼介、おい聞いてるか、好き。

とりあえず原作を貼っておきます。一緒に読みましょう。

 

2019年に「燃えよ剣」のキャストが発表された翌日、『山田くんが新選組をやるんだー!沖田総司って薄命の天才剣士だ、たしか!』と息まいて大学の図書館で「燃えよ剣」を借りてきて一度読んだ感想。

なんかよくわかんねえな

そもそも語彙がむつかしい。あと幕末の知識が皆無なので、敵対関係を俯瞰で理解することもできなければ、「ああ、なんとなくあのへんか」と時代背景を思い描くこともできない。

とぼとぼと本を返却しに行き、なんとなく山田くんはプリティーキュートな天才剣士の役をやるんだな、ということにしておいた。

しかし

先の記事をご覧いただければわかるのですが、ひょんなことから、この後同じく司馬先生の作品である新選組血風録

新選組血風録 新装版 (角川文庫) | 司馬 遼太郎, 蓬田 やすひろ |本 | 通販 | Amazon

を読んで、私はすべて『わかって』しまったのである。そしてこれと同時に、いつも飄々として掴みどころのない一番隊組長沖田総司に密かに懸想する六番隊所属イマジナリー隊士の人格を生み出してしまった。今このブログを書いているのは彼です。

『わかって』しまった後に改めて「燃えよ剣」を読んだ時、あまりの美しさにのけぞった。

理解の及ばないことを遠ざけた怠慢と愚かさゆえのタイムロス……。

今では正直、「燃えよ剣」に死ぬほど惚れている。

司馬先生の恋人になって、「今どんなの書いてるの?」って探りを入れて、担当編集さんよりも早く「燃えよ剣」の原稿を読ませてもらい、ひとりで散々味わい尽くしてから事故を装って庭で燃やしてしまいたい。

司馬先生の美文の粒子をキメずに映画を観に行くのは正気じゃありません。

 

さて、一旦コロナによって公開延期となってしまった「燃えよ剣」ですが、現時点では2021年10月15日に公開される予定になっています。

(大事な話なので叫びました)

となると今から日が無い。

山田くんがどこかで言っていたように、本作はただでさえ数多の人間や権力、時勢が入り組んでいるのに、二時間前後の映像(しかも顔良しの渋滞)におさめられようもんなら間違いなく初見殺しです。

「私が先頭で行きます」という沖田組長の前に転がり出て盾にならねばならない我々としては、『話についていけなくなった(汗)』『なんかよくわかんない(笑)』などと焦ったり笑ったりしている場合じゃないのである。気合入れてこ!!!

 

というわけで、私のように

新選組含め、幕末の知識に明るくない

・山田涼介の沖田総司が目当てで観る

・ストーリー展開に翻弄されずに山田くんに集中したい

・山田涼介が好き

・山田涼介が好き

・山田涼介が好

 

な方々は一旦集まって、情報の整理・復習パーティーをしようよ♪というのがこの記事の趣旨です!

※以下、やむを得ずいくつかの文献の一部分を引用することがありますが、それぞれの詳細は当記事末尾に明記いたします。

 

 

燃えよ剣」とは?

まずは映画の公式サイト(ABOUT THE MOVIE|映画『燃えよ剣』公式サイト 2021.10.15 FRI (moeyoken-movie.com))からあらすじを引いてきましょうか……

武州多摩の"バラガキ"土方歳三は、「武士になる」という熱い夢を胸に、近藤勇沖田総司ら同志と共に京都へ向かう。徳川幕府の後ろ盾のもと、芹沢鴨を局長に擁し、市中を警護する新選組を結成。土方は副長として類まれな手腕と厳しい法度で組織を統率、新選組倒幕派勢力制圧に八面六臂の活躍を見せる。お雪と運命的に出会い惹かれあう土方だったが、時流は倒幕へ傾いていきーーー。

-----------------------------以上、引用

無駄が削ぎ落とされ、引き締まったあらすじ説明だね…。そりゃそうだ、公式だもの。

ある程度詳しい人ならこの時点でストンと腑に落ちて、「おもしろそう」と原作を読み始められる。

だがしかし、私は違う!!!(威張るなよ)

 

そもそも当時の時代背景としては、ちょうど、浦賀にペリーが来航したころ。

幕府は悩んだ。このタイミングで満を持して開国すべきか、これまで通り鎖国を貫くべきか、グズグズしていた…。結果、外交関係の重要なことを朝廷に相談せず、勝手にハンコを押してしまったりね、焦りが見える。

無論、当時の日本国民全員が100%幕府ラブ♡なわけはなくて、むしろ幕府に恨みを持っている人、朝廷を無視するかのような幕府のやり方に辟易している人、なんかも多いわけだ。

そこで。いつの時代も過激派は存在しているので、当時は長州藩水戸藩を筆頭とする"尊攘派"たちが、尊王天皇を敬い)攘夷(外国人を打ち払う)の運動を起こしていた。

京都の町では彼ら尊攘派の過激な活動が目に余り、町の治安を守る「京都所司代」などの力だけではもはやどうにもならない!

そんなさなか、朝廷と話し合いをするために京へ上ることとなった14代将軍家茂の護衛が募集され、それに応じたのが土方たちというわけである。

しかし蓋を開けてみれば、土方たちが参加したのがとんでもない裏切り集団(隙をついて江戸へとんぼ返りし、この機に乗じて幕府を転覆させてしまおうとしている)であることが明らかになり、土方たちは芹沢一派と共にインチキ護衛隊を抜け、京に残ることを決意。始まります、新選組……。

 

つまり本作は、自由気ままに生き方を選べない『身分制度』の根強い時代において、その高い壁をよじ登って「百姓」から「武士」に成り上がっていく泥臭くも華々しい男たちのギンギラギン話とも言えるし、たとえ『勝てるわけがない』とわかっていても、己の誇りや美学に急き立てられて滅びへの一途をひた走っていった男たちの哀しい物語とも言える。

彼らが最後まで命を賭して守り抜いた幕府の末路を、我々は教科書を開かずとも知ってしまっていますね。

 

どう?最高の顔良し連中の腰にしがみついて沈みかけの船に乗り込み、京へ旅立つ準備できた?!!?!??

 

ちなみに、我らが山田くん演じる沖田総司は、岡田師範演じる土方歳三の同志であり、血よりも濃厚に繋がれた弟であり、魂の一部です。

 

沖田総司」を知る

まずは沖田きゅんの基本情報…Antipastoから参りましょうか……いただきます♡(食うな)

<生まれ>

沖田総司きゅんの幼名は「惣次郎」(当時の書状などで数通りの漢字表記が確認されていますが、ここではこれでいきます。漢字にはさほどこだわらない時代だったよう)。

奥州(現在の東北地方)白河藩の御徒士(それより一つ下の身分の「足軽」という説も)の息子として、江戸の白河藩邸(現在の西麻布あたり)で誕生。

お姉さんが二人。そのうちのひとり、お光さんは今回も登場するかな。

総司くんが幼い頃に両親が相次いで亡くなったので、彼はほとんどお姉さま方に、とりわけ長女のお光さんに育てられたといえます。彼女はわずか13歳で結婚し、赤ん坊だった総司くんの面倒をみていたよう。

家長であったお父さんが亡くなった時、本来なら長男の総司くんが家督を継ぐべきところを、彼があまりに幼すぎたので、お光さんの婿である林太郎さんが沖田家を継ぐことに。

ほどなくして沖田家は白河藩を脱藩することとなり(これも諸説あり。林太郎さんが定年=当時40歳間近で突然脱藩したという説も)、途端に貧乏になりましたが、総司くんは末の弟ということもあり、お姉さま方に愛情を注がれて、大切に育てられたようです。

林太郎さんが近藤道場(=試衛館。勇さんの養父が運営)の門人だったことをきっかけに総司くんも道場に出入りするようになり、近藤さん、土方さんと宿命の出会いを果たします。

やがてお光さんに長男が生まれたことで、跡継ぎ問題が複雑化。本来の跡継ぎは本流の長男総司くんに決まっているんですが、一旦林太郎さんが継いでしまっていますから、林太郎さんに長男が生まれた以上、家督は総司くんには戻らないということなのだろうか……厳しいね、当時の相続問題。

この頃総司くんは、半ば厄介払いのような形で、正式に近藤道場へ預けられます。

家族仲が悪かったとか、お姉さん夫婦に無下にされていたなどという記述はないものの、家ではなんとなく宙ぶらりんな立場だったのかもしれませんね。

 

<役割・立場>

新選組における公的な立場は「一番隊組長」。

新選組の隊士といえば腕が立つのは当たり前ですが、「一」の数字通り、中でも「一番隊」は特に粒揃いだったようです。

その一番隊を束ねる組長という立場なので、必然的に平隊士全体に広く目を配って統率する役目も負っていたことが窺えますね。

隊のツートップである近藤さんと土方さんが腹の底を全部開け広げて見せる相手は首尾一貫して"同門"の天然理心流メンツ(沖田きゅんはこれに含まれている。この時代は剣術の流派が思想や振る舞いを分ける時代だったので、狂気的なまでの同門意識が根付いているのです。しかもこの流派に限っては、血縁によっても固く結ばれています)のみに限られるので、特別に内密に運ばなければならない件では、沖田くんが情報収集役も務めることがあります。

二人からこっそり直々に指令を受けて、敵だろうが何だろうがターゲットの懐に潜り込んで本音を仕入れてくるわけだな。本人曰くあまり性に合わないようで、人の非違を見張るのは好かないらしい。単に人を観察して面白がったり愛おしんだりするのが好きなようです。

あと、これは意識下のことなのかそうでないのか、誰の懐にでも易々と入り込んで胸の底の本音を聞き出し、自分なりの鋭い考察を加えたうえで、きわめて明るくにこにこと土方さんたちに報告する。これが制裁(おおかた、暗殺や切腹です)への決定打になったりするんだよね……さながら、いつも絶妙に的を射たヒントを落としていく舎弟キャラ。沖田きゅんを純粋に信用してつい本音を漏らしてしまった人からしたらたまったもんじゃないが、沖田きゅんは基本的に人を嫌わないので、悪意はないのである。

みんなも沖田きゅんに話しかけられたら気を付けるんだよ、うっかりアカンことを口走らないように。

 

それから、バチボコストレス溜めまくりの鬼の副長土方兄さんの心理カウンセラーみたいなのもやっている。普段は胸のうちを迂闊に漏らせず常に気を張っている土方兄さんが、なぜか沖田きゅんの前では気を緩めるんだよね。はっきりと「この若者(沖田きゅん)にだけは、肚の中のどういうこともいえるのである」(①p.395)という記述がある。

「ねえねえ、あれちょっと変だと思わない?」「総司、これどう思う?感想聞かせて」「総司、俺、好きな人ができたかも」など、終始こんな感じ。あんたらJKなのか?というかもしかして、沖田きゅんがおじさんをJKにしてしまう…?

 

<性格・特徴>

◆剣の天才

どういうわけか、何人斬ろうが返り血を浴びないらしい。土方兄さんに「鬼の申し子」とまで言われている。

沖田きゅんの着物に血がついていたら、それは敵のものではなく自分の喀血であると考えるのが妥当。

沖田の三段突きというのは有名で、三度の突きが一度に見えるということらしい。つまり「あっ、突き食らった…!」って思った頃には既に三度突かれて死んでいる。かっこいい何それ……

そしてなんと、高まることに…おそらく沖田きゅん、自分が天才であるという自覚がある、多分。大っぴらに見せびらかすわけではないけど、純粋に「剣でいちばんになりたいなあ♡」とぼんやり夢想しているその奇妙な余裕とか、最前線に躍り出て大胆に斬り込む軽やかさから香り立つ揺るぎようのない自信とか…あ、こいつ、そもそも凡人が一生かかってもたどり着けない領域からスタート切って、とっくに何千里も先を走ってるな…って鳥肌が立つ描写がある。

山田くんも、無論努力の人ではあるけれど、自分に天性の魔力があることを知ってしまっているよね…ぽやぽやしておいて突然ぎゅんぎゅんに腰振るから…けしからんなあの男。

 

◆ふとした時に品がある

お江戸の由緒正しい家でお姉さま方に囲まれて育ったから、言葉や振る舞いに品がある。清潔感もありますね。

不審な人に「黙ってついて来い」なんて荒っぽいことを言われたら「どこへです」「あなたは、どなたです」などと返すんですよ。本当に人斬ってる人?

品の良さに定評がある山田くんはこの点でも適役です。

でも骨の髄まで江戸っ子なので、言う時はこてんぱんに言う。口下手な土方さんなんかは言い返す暇を与えられずいつももごもごしている。あれ、突然お口が悪くなっちゃうところも完全に山田くんじゃん。

 

◆美貌

なんかもうとにかく誰がなんと言おうとぶちくそ可愛いらしいんですよ。

沖田総司がめちゃくちゃ可愛いなんて史実は無いんだけど、司馬先生はそういう設定で書いています。ありがとう司馬先生、おかげで山田涼介がキャスティングされました。

なんてったって、「ちょっと色小姓にしたいような美貌」だそうですからね。色小姓というのは、もちろん小姓として武将の身の回りのお世話をすることに加えて、寝間で女性の代わりもする少年たちのことですよ。とんでもないことになってきましたね。なんか気まずい雰囲気になってきたので話を戻します。いきますよ!!!ほら集中して!!!(ビンタ)

 

「沖田は、可愛い唇でにこにこ笑っている」(①p.64)

沖田総司は、可愛いあごをひいてうなずいた」(①p.122)

「沖田は可愛く小首をかしげた」(①p.177)

 

いや、大人の男性にこんなに"可愛い”連呼することある!??!???!?

ジャニオタ!??!??!

もうどこもかしこも可愛いみたいですね、沖田くん。

 

「沖田は、微笑をした。その微笑は、……いつもそうなのだが、歳三がこわくなるほど澄んでいる」(②p.82)

「沖田は微笑している。例の、この男特有の陽がそこだけに射しているような明るい微笑であった」(②p.171)

 

こちらはどちらも下巻の記述なので、病状が随分進行してしまっている頃です。

やつれればやつれるほど彼の微笑は透き通るように薄く、明るくなる。命を諦め始めている兆候だと思う。タイプしながら手の甲で涙を拭いています、今。

この「陽がそこだけに射しているような」って素晴らしい表現ですよね…山田くんを見つめる時いつも「天然スポットライト当たってんじゃん…」って思ってる。ニノさんももう「自発光」呼び定着してるし。山田涼介、太陽よりも長生きするんだぞ…

 

◆止まらない土方イジり 

沖田総司泣く子も黙る鬼の副長土方歳三を死ぬほどイジる。ジャにのチャンネルの菊池風磨の上を行くんですよ。

 

江戸の道場のまわりで疫病が蔓延した時、道場には誰も感染者が出ず近所の人々に気味悪がられていたので、近藤さんが土方さんに「お前ちょっと罹ってみたら?(笑)」と提案した場面の一言。

「土方さんじゃ、だめです。……疫病神がしっぽをまいて逃げますよ。土方先生ご自身が、大疫病神でいらっしゃる」『なにをいやがる』(①p.157)

大疫病神…みんな言いたいけど言えないその禁句…

 

「(土方さんは)日本一の喧嘩師だな。ただおしむらくは、土方さんには、喧嘩があって国事がない」『その悪口、山南敬助からきいたか』「いいじゃないですか」(①p.235)

よかあねえよwwwwwwww

 

「土方さんは可愛いなあ」沖田は、ついまじめに顔を見た。『なにを云やがる』歳三は、あわてて顔をなでた。(①p.275)

マジで照れてんじゃん。可愛いねえ、二人とも泣

 

「(尊攘派の計画には無理がある、狂人の集団だという話になって)新選組も、同じですな」沖田はくっくっ笑って、「土方さんなど、狂人の親玉だ」『なにを云やがる』(①p.316)

うん、それもその通りなんだが、そのまま伝えるのはおやめなさいな。

 

「土方さんのおっしゃるそんな混み入った言葉裏が、近藤さんにはわかりませんよ。あのひとは、土方さんとちがって、根がお人好しだから」『ーーとちがって、とは何事だ、総司』「うふ」(①p.398)

うふって何可愛すぎもう全部許す

 

「土方さんぐらいのものだなあ、無傷で突っ立っているのは」と、沖田が、くすくす笑った。『ものをいうと疲れるぞ』「疲れませんよ。感心しているんです。見渡してみると、どうみても土方さんだけが鬼のように達者だ」『静かにしろ』(②pp.214-215)

 

「歳さんごめんなさいうちの総司が…」と思わず本に向かって謝るほどです。

それにしても土方さん、基本的に「なにを云やがる」としか言い返せないの情けないですね…。

 

◆人たらし

これは血風録の方のエピソードだったと思うけど、一番隊組長ともあろうお方が、道場で普通に平隊士たちときゃぴきゃぴ談笑するらしい。組長としてはかなり若い上に神がかった才能を持っているがゆえに、嫉妬や心無い態度と相対することもあっただろうから、そういう摩擦を最小限にするための策だったのか、それとも、隊士たちと目線を合わせて会話することを純粋に楽しんでいたのか……どちらも真だと思うけど、立場や格式なんかにてんで興味のない人なので、後者の色が強いんじゃないかな。

イマジナリー隊士なんかは、沖田組長の潤んだ瞳を正面から見つめる妄想を散々し尽くしているくせに、道場で横顔に朝日を受けながらこの世のものとは思えない微笑を浮かべて「おはよう」と言われたりなぞしたらその日は一日中顔面紅潮+冷や汗ダラダラですからね。

ちなみに作中に、沖田くんを本気で嫌う人物はただの一人も出てきません。誰からも恨まれるいわれの無い清らかな人だからこそ、後半の病の一件がより切なく胸に迫ります。

 

◆恐ろしく勘が鋭い

なんか、背筋がゾッとするほど勘が良い。剣の才能なんかはわかりやすいところだけど、不気味なくらいの嗅覚もまた、彼の天賦の才だと思う。

「動物的勘」が優れていると言えば土方さんなんだけど、さすがの彼でさえ異変に気づけていない時も、沖田きゅんだけは当然のように違和感を覚えている。

しかも作中で何度か「沖田は利口」だと述べられている通り、勘で掴んだ尻尾を決して放さないし、振る舞いもしくじらない。

悪事を働くのは人で、時勢に波を立てるのも人なので、要は人の内面の動きをすべて把握できていれば防げる災いというのは数知れないじゃないですか。彼は普段から誰にでも分け隔てなく接して胸の深いところに触れているからなのか、人間の根本を瞬時に見抜いてしまう。彼の前で慌てて素性を隠し立てしようとするのは全く無意味だし、おまけに剣では万に一つも勝ち目がないので、もしもやましいことがあるなら全面降伏しかないですよ!(アドバイス

 

◆地獄のような忠誠心

沖田きゅん、本当はお坊っちゃまだし、何も近藤さんや土方さんと一緒になって泥にまみれる必要は無いんですよ。あれほどの腕ならば、道場を開き門人を募ってなんとか暮らしていくことはできるし、じきに可愛いお嫁さんでももらって仲良く老いていくのだろうと…おそらくお姉さま方もそんな算段だったと思います。

でも、出会ってしまった。近藤勇土方歳三という名の、不器用で気高くて美しい"男"の概念そのものに。

思うに、学問が嫌いでなく物事を俯瞰で眺めるのも得意で、異様に勘が鋭い沖田くんのことですから、幕府が沈みかけた陽であることははなからわかっていたんじゃあるまいか。それでも、愛してやまない兄貴たちが追うものを自分も追いたい。そんな一心で、幕府の最期を看取るお役目を引き受けたのですね。

 

「私は近藤先生と土方さんの征くところなら地獄でも行きますよ。もっとも、極楽の方が結構ですがね」(①p.166)

「私も」と、沖田はあかるくいった。「命のあるかぎり、土方さんに、ついてゆきます」(②p.86)

 

上の引用は、京へのぼることが決まった時の言葉。はじまり。

下は、もはや剣も振るえないほど病に侵された状態で、「終わり」へと我武者羅にひた走る土方さんにかけた言葉。

黎明から薄暮まで、沖田くんは土方さんと共にあった。

ここまで、なかなか融通のきかないお兄さんたちに呆れ果てて見捨てることだって、志を異にして道を分かつことだってできたはずなのに、結局片時も離れませんでした。

土方さんが田舎喧嘩を京にまで持ち込み、その長年の因縁の相手と京で相まみえてピンチに陥った時も、熱っぽい体に鞭打って跳ね起きると、「一番隊、私につづいて頂きます」と真っ先におどり出ていくんですよ。

 

あの時代の志士たちはそれぞれ政治的な思想を持っていて、誰彼構わず熱く論じ合っていましたが、その思想の齟齬によって仲違いをすることも多かったようです。

近藤さんも人脈が広がるにつれだんだん政治を語るようになり、思想に踊らされるようになる。土方さんには"政治"は無いが、己の濃厚な美学がある。

一方沖田くんは色々な知識があるはずなのに明確な政治姿勢を示さない。常に中立的。ふわふわしていて掴みどころがない。

彼は何も考えていないのか…?そんなはずはないだろうが。

彼には急所があります。れっきとした思想もあります。

近藤勇」と「土方歳三」という二人の生身の人間が、彼の"思想"なのです。

庇護欲と激情と愛欲と憐憫と……ぐっちゃぐちゃな何かが喉元にせり上がってきませんか……

 

◆女性にはシャイ

「沖田は、まだ女の味を知らない。どういうわけか、そういうことには生まれつき淡いほうらしく、道場の他の連中が岡場所の女に夢中になったりするのをふしぎに思っている」(①p.94)

 

ありがとうございます!!!!!!

主人公はじめこの作品の男性陣は誠に好色なので、沖田くんも例に漏れなかったらあたくしどうしましょうかと気を揉んでいましたのよ、オホホホ(幕末お嬢様)

基本的に本編には沖田くんの恋愛描写は無い。徹底的な清潔感とピュアっぷり、もはや人間離れした彼には肌と汗の絡み合う艶っぽい演出など不要。わかったか。

ただし、一か所だけ、ほのかに香るところが。

京が気に入らないとぼやく土方さんに向かって、微妙に含み笑いをして見せるんです。

 

歳三は、この沖田が、相手がたれとまではつかめないが、淡い恋をおぼえているらしいことを、その言葉のはしばしで察していた。(①p.223)

 

ダーーーーーー!!!!(?)

この恋のお相手については、ぜひ別冊「新選組血風録」にてご確認くださいませ。

そちらにはなんと『沖田総司の恋』という、この世の甘いものを全部煮詰めて仕上げに乙女の涙を一滴垂らしたような静かで切ないエピソードが入っています。初めて読んだ時は食欲無くしました。

おじさんが書いたとは到底思えません。世の中のおじさんがみんな司馬先生だったら良いのに。

ただ、今回の映画にはあまり関係ないと思います。なんてったって、芸妓の糸里ちゃんが沖田くんに思いを寄せているというオリジナル設定がなされているようですからね!!!糸里、あんたがどんな女か、この後赤裸々に書いちまうからね!覚悟しい!

 

◆いくらなんでも設定盛りすぎ

これは普通に司馬先生への説教。

あのね先生、やりすぎ。

肉体の全盛期に惜しくも病没した薄命の天才剣士というのは若干史実に基づいているが、これに「美貌」と「ギャップ」のエッセンスを勝手に入れてしまったらもう生態系が崩れるよ。事の重大さを理解してくれ。

ひとたび剣でやり合えば、近藤兄さんや土方兄さんでさえ子供扱いされてしまうほど"異様に"強く、一か八かの重要な任務では必ず最難所を受け持つというだけでも失神しそうになるのに……おまけに誰にでも公平に優しく、物事の真理を射抜く稀有な目を持ち、頭が恐ろしく切れて、時には"人"と思えぬほど酷くもなれるなんて………?(ここまで一息)

女を抱くより子供と遊ぶほうが好きな沖田きゅん、人を山ほど斬った後にわらべうたを口ずさみながら屯所へ帰るようなところがあります。

永遠の子供のようでありながら、百年以上生きる仙人のような洞察力を持っているという強烈な矛盾が、彼を「不思議な若者」たらしめる所以です。

嘘もおべっかも脅迫も通じない、もはや遠い未来まで一挙に見通してしまっているのではないかと思えるほどに澄んだ目…ふらついているようで揺るがない心…

 

近藤さんは沖田きゅんのことを奥様に話した時、あんなに生死というものに悟りきったやつもめずらしい。(②p.320)と漏らしていたらしいのです。

「生きる」、「死ぬ」という重苦しい概念さえ、沖田くんの肩にはそう重くのしかかるものではなかったかもしれません。当時完治することのなかった死病に日々蝕まれていく体を惜しむことなく新選組のために使い続け、その日その日の滋味を味わい尽くすような様子を見ていると、とても「老いた先」に明るい展望を持っていたとは思い難い。体を病んでから次第にああいう諦観を持つようになったか、といえばそうでもなく、あの底抜けに明るい童のような性分はまさに生まれ持ったものであるとの記述があります。

「たとえ卑怯な真似をしてでも生き延びねば…!」と生き恥を晒す者、己の思想に恍惚として無駄死にする者…そんな千にも万にも及ぶさまざまな生き方を目の当たりにしてきて、沖田くんは何を思ったのだろうか。滑稽だと首を傾げることも、とても理解ができないと呆れることもあったかもしれないけど、人の生き死にの方法を総じて尊重することのできる彼のことですから、皆等しく友としていたわり、愛おしんでいたのだろうと思います。

 

その他の登場人物

幕末は、激ヤバ人間たち(語彙…)が一挙に生まれてしまったとんでもない(語彙……)時代というのは有名ですが、本作には沖田きゅんの他に一体どんな人物が登場するのでしょうか。

当然ながら私はまだ本編を観ておらず、どの人物にどれほど焦点が当たり、どのエピソードが濃ゆく映像化されるのかがわからないので、とりあえず絶対出てくるであろう最重要人物たちだけ拾っておきます。もしかしたら本編には「誰ですか………?」って人が出てくるかもね!それも醍醐味だね!

とはいえ、公式サイトの人物相関図(ABOUT THE MOVIE|映画『燃えよ剣』公式サイト 2021.10.15 FRI (moeyoken-movie.com))が完璧に仕上がっているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。

ここでは各人物と沖田くんの絡みをメインに書いていきます♡

 

土方歳三岡田准一

何を隠そう、主人公です。

武蔵野国多摩郡石田村(現在の東京都日野市)に誕生。沖田くんと同じく幼少期に両親を亡くし、次兄夫婦に育てられます。このお兄さんはかなりやり手の商人でしたが、この人とはあまり反りが合わなかった模様。

商いにはほぼ興味が無かった土方さん、言いつけ通りに実家秘伝の薬を売り歩くついでにさまざまな道場に出入りし、めきめきと剣の腕を上げていきます。どうやら「武士」というものに不気味なほどの憧れと執着を持っていたみたい。

 

沖田くんにお光さんがいたように、土方さんにはおのぶさんというお姉さんがいました。彼女は既に佐藤彦五郎という方のところにお嫁に行っていたわけですが、なぜか土方さんはおのぶさんの婚家に入り浸り。ただ、これが結果的に土方さんの試衛館入門に繋がります。

この義兄である彦五郎さんも、実は近藤さんと義兄弟の契りを結んでいる仲。新選組結成前後も何かと支援をしてくださる心強いお義兄さまです。

 

さて、肝心の沖田きゅんとの関係性ですが……土方さんとの絡みについてはここまでに幾度も放出しているのでお分かりかと思います。そんな史実はないようですが、司馬先生の作品においては、二人は格別に仲良しです。鬼の副長と一番隊組長という肩書きを背負っているとは思えないほどに微笑ましくささやかな二人のやりとりに心底癒されてほわほわになっちゃう。

私のお気に入りは、沖田きゅんが恥ずかしがる土方さんを尻目に彼の句帳をパラパラめくり、内心「下手だなあ」とニコニコするシーンですかね。趣味で作っている句を見せるって、相当心開いてますよね。

ところが、予告映像でも沖田くんが読み上げている「知れば迷ひ 知らねば迷はぬ 恋の道」という句を一目見た時、沖田くんはふと真顔になります。(大変な句だな)と思ったみたい。知れば迷ひ、知らねば迷はぬ山田担の道……たしかに、大変な句だね。

 

二人きりの時は、いつもこんな感じなんですよ。

『隊の者にはだまってろよ。(略)』

「じゃ、私にも云わなきゃいいのに」

『お前だけは、べつさ』

「私だけは別? 迷惑だなあ、訴え仏みたいにされちゃって」

『ふふ、お前にはそんなところがあるよ』

(①pp.465-466)

 

ここで流れるスパデリ。

なぜかいつもいわゆる「ここだけの話」を打ち明けられてしまう沖田きゅん、困ってるけど嬉しそうで不憫かわいい。

 

近藤勇鈴木亮平

武蔵国多摩郡の百姓宮川家の三男として生まれました。

お父さんの久次郎さんが自宅に設けていた道場に招かれて天然理心流の指導をしていた周助さんの目に留まった勇さんは、なんと養子として迎え入れられ、天然理心流の跡継ぎに指名されます。まさかの急展開……!!確かな才能が見込まれたんですね。

当時三男といったら、跡継ぎでもないし、丁重に扱われるわけでもないでしょう。そんな立場だったにも関わらず、立派なお師匠さまの名字をいただいて道場を託されるなんて、百姓ながら幼い頃から軍記物語や武将の武功談が大好きだった勇さんは、どれほど嬉しかったでしょうか。

無論、稽古で出会った土方さんとは義兄弟の契りを交わしているわけですが、沖田くんのことも相当可愛がっています。実力をしっかり認めている上に、実の兄のごとく沖田くんを気にかけ、いつも頼りにしている。京へ上る時に道場まで挨拶をしに来たお光さんは、近藤先生を父と思ってお仕えするよう沖田くんに言い含めています。

余談ですが、近藤さんは顎がガッチリ丈夫で、鯛を食べる時に骨まで炙って噛み砕いてたそうです。沖田組長が言ってました。

あと、近藤さんの唯一の一発芸は、「拳固を口の中に出したり入れたりする」芸です。なんでも、近藤さん憧れの加藤清正もこれができたらしく、自慢みたいです。これも沖田組長から聞きました。『なんじゃそれ笑』って思って試してみたんですが全然無理でした。みなさんもぜひどうぞ。

 

芹沢鴨伊藤英明

芹沢さん…♡新選組の初代局長です。土方さんらに暗殺されます。

史実では出自に謎の多い人物なのですが、司馬先生の記述に則ります。

彼は水戸脱藩浪士で、神道無念流の使い手。かつては狂的な水戸攘夷党「天狗党」で活動しており、強奪や狼藉が積もり積もった末に処刑が決まりましたが、運よく時勢の追い風を受けて名前などの一切を改め、土方らと共に浪士組に参加します。

残忍で傍若無人。人を大根のように斬るのだとか。大根……?怖すぎるので道で出会ったら死んだふりをしましょうか。

彼はとにかく粗暴で豪快な大トラブルメーカーというイメージですね。いつでも酔ってるし。燃えよ剣においては前半で暗殺されてしまいますが、如何せんインパクトが強烈で、忘れられない御仁です。

沖田くんたちの試衛館メンツとは宿も違い、ちょっと距離を置いていたようなので、原作ではあまり絡みが無いんですが、映画では多いみたい…?芹沢さんに肩を抱かれて大路を歩く沖田きゅん……芹沢さんは元々武士なので、同じく武士である沖田きゅんのことを大変可愛がっていたらしい。

 

新選組血風録」の「芹沢鴨の暗殺」という章に、かなり良いエピソードがあるんで聞いてください。

沖田きゅんは、大胆でわかりやすい芹沢さんのことが嫌いじゃなかった。むしろかなり好きだったようです。しかし沖田きゅんは新選組のエースですから(山田くんもJUMPのエース♡)暗殺においても重要なお役目を担います。嫌いじゃない人を斬るんだから、さぞ心が痛むだろうと思うじゃないですか。実際、「芹沢さん、可哀そうだな」と言うんですよ。

やっぱり、この子は優しいね…この優しさが新選組にとっては弱みになるかもわからんけど、沖田きゅんは沖田きゅんのままでええんやで♡

「芹沢さん、可哀そうだな」といいながら、この仕事の準備に一番熱心になった。ひどく仕事好きで、凝り性な男なのである。(③p.93)

???

芹沢さんのお部屋にしばしば遊びにいっては、足の動かし具合や部屋の大小、廊下の長さ、行燈の置き場所に至るまでそれとなく検分してきて

「もう大丈夫です。眼をつぶってでも歩けます」

その日を待ちかねている様子だった。(③p.93)

 ??????

「土方先生、あなたはずるいから。一ノ太刀はご自分がつけるつもりなのでしょう。そうはいきませんよ。私はこれほど検分しているのだから、私に譲っていただきます」(③p.94)

ちょ、ちょっと待ちなよ????(大汗)

意味がわからない。無理になってきた。沖田きゅん、これは一体どういうことなの…?

結果、暗殺は成功するのですが、きっとかなり見応えのあるシーンでしょうから楽しみですね!!!!え、あるよね、芹沢暗殺シーン笑 いきなり近藤さん局長になったところから始まったらどうしよう。

 

というか、芹沢に扮した伊藤さん、セクスィ……すぎやしませんか????色気大魔神!?予告の「洒落くさいよ君は…」で『もうどうにでもしてェッ!!!!!』って全裸で駆け出しちゃうよね(?)

 

山南敬助安井順平

仙台伊達藩脱藩。個人的に大好きなのですが、この人も出自に謎が多いんです。

学問に秀でていて、文字も上手かったよう。

剣はできて、神田お玉ケ池の千葉道場で免許皆伝。北辰一刀流(水戸学的色彩が濃いので、尊攘思想を刷り込まれている)。

江戸一の大道場(坂本龍馬も同門!)出身なので顔が広く、人脈が豊富。新選組もこの人のおかげで道が開けたこと、何度もありました。でも野生の勘で生きている土方さんにとっては理屈っぽい知識ひけらかし野郎に思えたようで、露骨に毛嫌いされています。

江戸の道場時代から沖田きゅんとは仲良しで、10歳離れた沖田きゅんを弟のように可愛がっていました。政治の話などを噛み砕いてわかりやすく説明してやる事で沖田きゅんに諸々の基礎知識を授けてあげていたのはこの人。

山南さんは沖田きゅんと話していた時、ふと言います。

「私は君と話していると、神様とか諸天とかがこの世にさしむけた童子のような気がしてならない」(①p.414)

これに対して沖田きゅん、「そんなの、ーー」と照れて石ころを蹴るんです。

グォッ………………………(すいません、イマジナリー隊士の中の怪物が暴れて…)

正直山田くんも神様からの贈り物ですからね、というか、神様そのものですからね。

こういう記述を見ていると、つくづくセミオトコを想起しませんか?

 

山南さん、後に新選組を脱走します。この時沖田きゅん、珍しく沈んだ低い声で土方さんに「大変ですな」と言うんですよ。「いいひとだったですがねえ」と。わかる!?!わかるじゃん!!??!いつもニコニコ笑ってお歌を歌ってみんなと仲良しこよしな沖田きゅんがマジ顔で惜しんでいるんですよ、この人の脱走を。土方さんの定めた最恐局中法度に則れば、脱走=切腹ですからね。山南さんも例に漏れません。

そこで追手兼介錯役に選ばれたのが、なんと沖田きゅんなんです。

誰ですか、こんな非人道的な人事を思いついたのは。土方・サイコパス・歳三さんですか?「お前がいい。山南君と親しかった」じゃないんだよ どういう神経だよ。

それでも隊務には忠実な沖田きゅん、ちゃんと山南さんに追いついてしまいます。

沖田は、だまっている。なぜこの運のわるい仙台人は自分に追いつかれてしまったのかと腹だたしかった。(①p.421)

ああああーーーーーー!!!!!!沖田先生、私が!!私が代わりに!!!そんなつらいお役目、先生にお任せするわけには…!!!(むせび泣き)

 

上源三郎(たかお鷹)

近藤道場の年長者、心穏やかなみんなのお兄さんです。泣く子も黙る新選組に、こんな人もいたんですね。先代(勇さんの養父、周助さん)から用人同然の内弟子として仕えていたんだそう。もちろん天然理心流

実は、沖田くんの義兄である林太郎さんは、この井上さんの実家から婿に来たのです。なんだかんだ遠縁の親戚というわけ。

特段強いわけではないんだけど、剣は着実。強いわけではないとはいえ、新選組の六番隊組長(お気づきでしょうか、イマジナリー隊士はこの人の直属です 優しいので大好きです、井上さん♡)を務めていますから、まともにやりあったら瞬殺ですよ。

近藤さんも土方さんも沖田きゅんも、昔馴染みのこの人が大好きですから、この人がピンチになったら血相を変えて助けに行きますし、心から信頼しています。

原作だとおそらく四十代だったかな…?そんな感じですけど、今回の映画ではあえて、もっと年上の設定にしたようですね。たかおさんは70代。癒し系おじさんキャラなので、とても楽しみ。

 

永倉新八(谷田歩)

近藤道場の食客(一種の居候。でも日々鍛錬に励み、仕事があれば出向くのでニートではありません)。神道無念流の免許皆伝。

新選組の二番隊組長を務めました。沖田くんが病気で戦線離脱した後は、一番隊も一緒に面倒をみてくれていました。ありがとう。

熱血最強おじさんというイメージ。とにかくめちゃくちゃ強いらしい。沖田きゅんよりもギリ強かったという説もありますが、その領域までいくともはやどちらがどうと順位をつけるのもくだらない。どっちも最強ということでいいと思う。

松前藩士の次男として江戸で生まれ育ったので、生粋の江戸っ子。曲がったことが大嫌いで、周囲の甘言に惑わされて政治思想に染まり始めた近藤さんとは真正面からぶつかり合うこともしばしば。とにかくよく喋ります。

この人が戊辰戦争を生き抜いて口を開いてくれたからこそ、数々の新選組の逸話が現代に伝えられているといっても過言ではありません。

沖田きゅんと仲良くしている様子が具体的に描かれているわけではありませんが、沖田きゅんがこの人から色々教えてもらっているらしいことを仄めかしているので、きっと気軽にお話する仲だったのでしょう。

 

斎藤一松下洸平

この人も謎の多い、不思議な人物です。

とにかく何もかもはっきりわからないのですが、お父さまが明石藩足軽子孫だったという説があり、そのため一(はじめ)さんも明石浪人とされます。

永倉さんと同じく生まれも育ちも江戸ですが、些細な諍いで人を斬ってしまったことから素性を隠していたようですね。試衛館時代からの古参メンバーという説もあれば、京都ではじめて合流したという説もある。剣の流派も定まっていない。ただめっぽう強く、新選組ツートップである沖田きゅんと永倉さんとも互角に打ち合ったのだそう。永倉さんによると、「沖田は猛者の剣、斎藤は無敵の剣」なんですって。ちなみに左利きです。

とにかく人を斬りたくていきり立っているようなところもありつつ、言葉は少なく冷静沈着に黙々と隊務をこなす人でもあった。

後半はスパイとしても活躍しますが、本当に、最後まで裏切らない人だった。斎藤一は、荒んだ心にじわじわ効くぞ。この男を信じていれば間違いない。

というか松下さん、最近MIU404で知ったばかりですが、イケメンですよね~~私の中の斎藤一のイメージは目つきがヤバい三白眼のキマりきった暗殺者なので松下さんは優しげすぎるような気もしましたが、絶対素敵…このビジュアルで斎藤一なのは天才。涼やかで清潔な色気がある。楽しみなキャストさんの一人です。まあ漏れなく全員最高なのは目に見えてるけど。

 

藤堂平助金田哲

江戸結盟以来の同志です。山南さんと同じ、北辰一刀流。「絵にかいたような好漢」で、近藤と土方からも身内のように愛されています。

ただ、近藤さんも土方さんも重要なことは天然理心流にしかシェアせず、内輪だけでこちゃこちゃやりたがるので、どこかよそもの扱いされ続けることに嫌気が差していたみたい。これは正直同意よね…。

しかも塾風のせいで、もともと勤王(「尊王」と「勤王」の違いについても少し勉強しましたが、あまり話が長くなってもアレなので…とりあえず天皇を敬う思想ということで…)の気(け)があります。楽天的で気の良い弟分のように見えて、実は過激な思想家だったようです。彼はひと悶着起こしますよ~~

ただ、沖田きゅんとは歳が近く、若者同士ふざけあったり、チャンバラごっこをしたりしていたというエピソードがあります。

金田さんは元々剣道をされていたそうなので、本格的な殺陣に期待ですね。そして顔が良いんですよねこれがまた。

 

山崎烝村本大輔

個人的に大好きなキャラクターです。監察方という役割で、いわゆるリサーチ係、縁の下の力持ちという立場なので、剣を使う場面はありません。とはいえ、剣の腕も相当なものですよ(見たことないけど)。

大阪の鍼医の息子なので、普通の町人姿が板についているのだとか。これもあって、新選組の仕事においては、手練れの剣士たちが突入する前に現場を巡回したり、さりげなく手筈を整えておいてくれたりするわけです。

史実とは違うようですが、「燃えよ剣」における最大のご活躍はやはり池田屋でしょうね……近藤さんらが討ち入る前に、この山崎さんが薬屋に化けて池田屋に潜伏していたのです。

一応薬屋という体ではあったけれど、忙しくなると臨時の配膳係を買って出て女中たちに指示を出すし、適当な理由をつけてターゲットたちの刀を回収して仕舞ってしまい、新選組の戦闘に強い追い風を吹かせるし。おまけに近藤さんたちが入りやすいよう鍵まで開けておいてあげる徹底っぷり。

とにかくなんでもできるし、気が利く。

しかも、だ。組織って上下関係があって、必ず下から順に話を通すことになっているじゃありませんか。職場の先輩が直属の上司をシカトして一番上の上長に退職を申し出てほうぼうから袋叩きにされていたのを思い出します…まあこれは余談。すみません。

山崎さんは、重要な情報が手に入った時、いきなり近藤局長に通すようなことはしません。

まずは土方先生。この順序は絶対に乱さない。

これが、土方先生にも重宝される理由です。超仕事ができる。どんな組織にも必要だ、山崎さんのような人間。こんな人になりてえもんだなあ…!

 

元々器用でコミュ力は高いイメージでしたが、原作では聡明かつ温厚、どちらかというと寡黙な印象でした。しかし、今回の映画の山崎さんはとにかく喋るようです。マシンガントークが見せ場なのだそう!しかも井上さんとお喋りするシーンもあるみたい!どうしよう可愛すぎる!沖田きゅんもそこにちょこん♡と混ぜてやってくだせえ!

 

市村鉄之助森本慎太郎

美濃大垣藩の出身。神道無念流を使います。

鳥羽伏見の戦いの直前に、兄と共に脱藩して新選組に応募。

土方さんに「お前、沖田に似ている」と言われたことを自慢に思っています。

(沖田くん本人が見たところ、別に似ていないらしいです)(森本くんと山田くんも特に似ていない)

それ以来沖田きゅんに並々ならぬご恩とご縁を感じ、大阪から江戸へもどる船の中ではつきっきりで沖田きゅんの介抱をします。

沖田きゅんは若いこの子を心底気にかけて、自分の世話ばかりさせるのはあまりにも酷だと心を痛めていました。歳三さんに「あのひとを……寄せつけないでくださいよ。どうも伝染(うつ)りそうな気がして、気が気でならない」(②p.366)と。それを歳三から聞いた鉄之助は感激のあまり身を震わせて声を上げて泣いたらしいのです。この頃から、実のお兄さんよりも沖田先生を崇拝するようになるのが可愛い。実のお兄さんからしたら笑いごとじゃないが。

※ちなみに、山田くんと森本くんは「一緒のシーンは無かった」そうなので、以上のやりとりはおそらく映画に登場しません。は?

 

お雪(柴咲コウ

大垣藩の江戸定府で御徒士をつとめていた男の妻。当時は単身赴任が普通でしたが、お雪さんはちょっと変わった女性で、旦那さんについて京へ。

お雪さん、画才があります。京へ上ったのも、絵を学ぶためだったとか。

夫が病死してからも、裕福な実家からの仕送りもあるため、江戸へ帰らずなんとなく京で暮らしていました。歳三という"運命"を、本能が待っていたのかもしれませんね。

ある時因縁の相手と派手にやり合って結構な深手を負った土方さんが偶然転がり込んだのが、お雪さんの家でした。

個人的に、甲斐甲斐しく世話を焼いて男を赤ん坊のように扱う女が大嫌いなのですが(突然のヘイト)なんとお雪さん、血まみれの土方さんの手当てをしません。必要なものを過不足なく用意してやり、傷を弄ることもなくひっそりと遠くから見つめている。

ックゥ~~~~武家の女だぜ~~~!!!!!!

普段ならすぐに体を求めて終わりにしてしまう土方さんも、この人にだけは格別な感情を抱いてしまい、手も握りません。たびたびやって来ては故郷の昔話を聞いてもらい、おしまい。お雪さんも大変聞き上手で、きちんと中身を理解しながら聞いているので、次第に土方さんの故郷の家族のこともすっかり覚えてしまいました。

それにこの女性、戦に行った男を家で待つということをしません。

あてもなく、一人でついて行ってしまいます。「行かないで」と泣いて引き留めるでも、せめて子供が欲しいとせがむでもなく、『来ちゃった』を繰り返します。

「もう二度と会えないのですか…?」という受け身の姿勢ではなく、『相手の命が此岸にあり、自分がこの足であの人のもとへ赴く限り、会える』と考えているのであろう、行動的な人。

数多の女を泣かせてきた土方さんにとってこの人だけは『特別』だったわけがわかるような気がします。

お雪さんは、傷の治療中の近藤さんや結核療養中の沖田くんの所へもひそかに見舞いに行き、さりげなく梅の枝を活けています。愛おしい土方さんの大切な人たちですものね。でも、そのことを土方本人に言わないばかりか、近藤さん、沖田くんの前で土方さんの噂をすることもなかったようです。

静謐な強さを持った、一流の女だと思う。憧れの人です。

 

糸里(阿部純子

人物紹介「沖田に想いを寄せる芸妓」

おおっと…???そんな人いたかいな??あたいの目が届かんところで何がおっぱじまっちゃってるわけ!??

原作にほぼ登場しないんですよ、彼女。芹沢鴨暗殺の夜に、芹沢の腹心(お世話係兼勘定方)のおじちゃん、平間さんと同衾していたはずです。

もうね、あたいはこの女のこと何も知らなかったもんだから、浅田次郎先生の輪違屋糸里を読んだわよ。

 

正直、司馬先生以外の先生の著作から人物像をくり抜いてくるのって意味あるの…?という疑問が拭えないので、ここから先の糸里ちゃんトークはあくまでも参考程度にとどめておいてください。きっと彼女は、今回の映画でオリジナルの役どころを与えられたキャラクターだと思うから。

 

輪違屋(わちがいや)」というのは京都島原の置屋(芸妓さんたちを抱えている家)です。お客さんからお呼びがかかると、ここからお座敷(揚屋と呼びます)へ出勤します。

糸里ちゃんは大変な別嬪さんで、芸事に関しても呑み込みが早く、若くして「天神(てんじん)」の位についています。響きが明らかに神々しいのですが、これは最高位である「太夫(こったい/たゆう)」のすぐ下。

私なんかは、最高位の遊女・芸妓と言ったら「花魁(おいらん)」という呼び名が馴染み深いのですが、どうやらこれは江戸吉原遊郭の遊女の呼び名なようで。

糸里ちゃんは、「私たちが売るのは芸のみ」というような発言をいくつかしていますので、島原の芸妓さんたちは今で言う"女優"のような位置付けでしょうか。このあたりはかなり複雑みたいです。吉原にも「太夫」を名乗る遊女がいたり、吉原も島原も提供するサービスは結局同じという説もあったりするので…ところでどうして私はさっきから本筋から逸れた話を延々と垂れ流しているんだ………??

さて気を取り直して小説の話に戻ります。

この作品、糸里ちゃんが敬愛するお姉さん太夫が芹沢さんに無礼打ちにされる大事件から幕を開け、糸里ちゃんにはまもなく「太夫上がり」の話が舞い込みます。

そして、糸里ちゃんの想い人はまさかの、沖田くんではなく土方さん。全然話が違う、、!泣

(輪違屋糸里の土方さんは世の最低男を一緒くたにして雑に煮詰めたようなまじクソ男で、擁護のしようがありません。岡田師範の土方さんは観る前から既に好きですが、輪違屋糸里の土方はただただ死んでください)

そう、土方さんが好きという設定ではあるんですが…芹沢鴨暗殺の時は芹沢の腹心平間おじちゃんと寝ていただと、、??!どういうことなんだよ糸里…「輪違屋糸里」はまさにここの部分の奥行きを創作した作品なんですよね。

ちなみに、司馬先生の「新選組血風録」でも、芹沢鴨暗殺時、輪違屋の糸里が平間重助と同衾していたという記述があります。ちなみに、斬られずに逃げています。

新選組は『絶対に女を斬らない』という信条を持っていません。男を斬る時に比べれば若干情けはかけるかも知れないけど…芹沢の暗殺は長州の仕業ということにして闇に葬る計画だったわけなので、口封じのためなら何だってするはず。いかに逃げ足が早かろうと、天下の新選組が女2人(糸里ちゃんと、もう1人の芸妓)を取り逃すわけがない。斬り損じることも考えられない、だって、こっちは沖田総司がいるんですよ。

あれ………もしかして、これなのか…?ここにドラマが生まれるのか……??沖田きゅんは糸里を見逃してやるということ…??

糸里ちゃんが沖田きゅんに想いを寄せているならば、芹沢の元で沖田きゅん以外の男と同衾していて沖田きゅんに斬られかけるってきつすぎませんか、、糸里ちゃんに何の罪があるってんだい…??

 

余談ですが、「輪違屋糸里」では、芹沢暗殺やら諸々の血生臭い仕事が片付いたあと、世紀のクズ男土方を清々しく突っぱねて『太夫』として一花咲かせる気高い人なのですよ、糸里ちゃん。

 

沖田総司の生涯

毎度同じことを言ってかたじけないんだが、公式サイトの年表が完璧である。

ABOUT THE MOVIE|映画『燃えよ剣』公式サイト 2021.10.15 FRI (moeyoken-movie.com)

ただこちらはあくまでABOUT HIJIKATAであって、我々にとっては不足がありますので、「燃えよ剣」と「新選組血風録」をマッシュアップして、ざっくりしたABOUT OKITA♡を拵えていこうと思います。

 

1842年 

総司きゅん、江戸の白河藩邸にて誕生

1851年 

試衛館入門

1863年

2月 浪士組に参加。土方らと共に京へ

3月 新選組発足 労咳発症(早いよ………勘弁してくれ…)

9月 芹沢鴨暗殺

1864年

6月 池田屋事件 喀血

7月 蛤御門の変

1865年

2月 山南敬助脱走 介錯

1867年

12月  戦線離脱 大坂へ護送

1868年

1月 幕府軍艦富士山丸にて江戸へ

5月 千駄ヶ谷の植木屋にて病没

 

沖田総司、生年月日さえ明らかになっていません。もはや実在したかが怪しい。

こうして見ると、沖田きゅんの生涯って異様に短いな…と思ったんですが、私の生涯の年表作ったらこれよりスッカスカになること間違いなしでちょっと笑ってしまった。戦に行っていないのでね!!!

それと、ちょっとここで、喀血の件についてひとつ喋りたいことがありますのでね…道を開けてください…

池田屋事件の戦闘中に沖田きゅんが喀血したという説は、子母澤寛先生による創作と推定されています。

喀血というのは労咳における末期の症状で、これが起こると余命は1年ほどと言われているようで。それにも関わらず、沖田きゅんは喀血後も(寝込む日が多くなったとはいえ)蛤御門の変に出陣し、山南先生の介錯もやり遂げ、時々土方さんをおちょくってきゃぴきゃぴし、4年も生きている。

加えて、生き残りの永倉先生は、後世に残した「新選組始末記」において、池田屋の戦闘の最中に沖田が「昏倒」したと述べるにとどまっています。

池田屋事件の頃は蒸し暑い夏の盛り。剣の達人と称される藤堂くんが珍しく眉間に強烈な一撃を食らってしまった原因は、あまりの暑さに耐えかねて額の鉢金を一瞬外してしまったためと言われています。狭い室内で繰り広げられる激しい戦闘の渦中にあった沖田きゅんが熱中症の症状で体調を崩してしまった、というのは信憑性があるのではないでしょうか。

まあそれは良いとして、「創作」って素晴らしいですよね…

我々も、単なる熱中症でふらつく沖田きゅんよりも、「コホッ……ゲホッ………」と咳込みながら天稟に満ちた乱れの無い剣で敵を斬り進める沖田きゅんが見たいよ、そりゃあ。

 

他作品の沖田総司

最初はあくまで「司馬先生の著作しか読まない!」と操を立てていたのですが、映画の情報が流れてくるにつれ、どうやら純潔性は薄いようで、原田監督独自の解釈・オリジナルシーン等がかなり多そうなんですよね。

そうとわかれば、もはや沖田総司というキャラクターそのものに心底惚れてしまっている私には、本屋に走ってひたすら彼の解像度を上げる他に術がないのである。叩いて打って研いで…まるで刀匠ですよ。「燃えよ剣」というタイトルがありますが、「剣」というのは物質としての剣の意に留まらず、彼の男たち自身の肉体や美学そのものをも指すのではないかと思うねえ。

散々色々読み散らかしましたが、私が特にフイーーーーーーーッ♡と鼻息を荒げてしまった選りすぐりの書籍を2つご紹介します。

 

輪違屋糸里

先程糸里ちゃんの分析において先走って紹介してしまった作品です。

「女たちの幕末」、「女たちの目に映った新選組」というのがテーマでしょうか。

新選組関連書籍の中では珍しく、女性たちの視点で物語が語られます。

芸妓の糸里ちゃん、そのお友達の芸妓、吉栄ちゃん(もう一人、芹沢鴨暗殺の時に逃げおおせたひとです)、芹沢鴨の愛妾であるお梅さん、近藤一派を世話していた八木家の奥方おまささん、芹沢一派を世話していた前川家の奥方お勝さん…彼女たちの目に映る新選組、恐ろしくも愛くるしいのです。

先に述べたように、芹沢先生がある太夫を無礼打ちにするシーンから幕を開け、土方さんたちによって芹沢先生が暗殺されるまでが緻密に描かれています。まあいわゆる、芹沢先生がメインキャラクターというわけ。そして、粗暴で手のつけられない酒乱という従来のイメージを覆す芹沢像をこの作品は堂々と提示してきます。

芹沢先生のお育ちの良いこと、案外気が小さくて女性に気圧されると縮こまってしまうこと、美しいものを愛でる確固たる審美眼をお持ちなこと…こんなにも魅力的な人だとは思わなかった。ぜひ一席設けて、じっくりお話をさせていただきたい。なんだかそんな風に思えるほどいじらしい人物でした。好きになってしまいますよ。面白いのが、このお人柄はすべて、新選組に絡んだ女性たちのフィルターを通したものであるということ。女性たちって、芹沢先生の狼藉によっていちばん迷惑を被っていそうじゃないですか。そうじゃないんだよなあ、これが。むしろ芹沢先生を泊めていた前川邸の奥様お勝さんなんて、彼がひっそりと庭でお花を育てていたり、責め立てると案外シュン…と小さくなってしまったりする面を見ているから、窮地に陥った時に庇い立てるような仕草をも見せます。

 

そしてこの作品、素晴らしいことに、肝心の大山場、クライマックスである芹沢鴨暗殺事件の章が、沖田きゅんの視点で語られるのです…。

なんという、お贅沢…はじめて読んだ時自分の妄想かと思いましたよ。

この作品でも、沖田きゅんはなんとなく芹沢先生が好きなんですよね。

芹沢鴨の暗殺はそもそも、彼をベロベロに酔わせた状態で決行する算段になっていましたから、決行の夜は隊士全員総揚げの宴が催されます。ここでの芹沢さんと沖田きゅんのやりとりに胸がギュッッッ……………となって2時間ほど苦しみましたので、みなさんにも苦しんでいただきたく、ここに引用させていただきます。

 

(芹沢先生に呼ばれた沖田きゅん、芹沢先生の酌を受ける)

 

盃を干すのを待って、芹沢は己の顔を招き寄せた。それから濁声をひそめ、耳元に囁いたのだ。

「沖田、おぬし胸を病んでおろう」

己は驚いて、思わず近藤先生の横顔を窺った。誰も知るはずのないことだった。

「近藤君も土方君もそうと察してはおるまい。だが、それがわからぬようでは大将は務まらぬ」

「ご内密に」と、己はひとことだけ囁き返した。芹沢は肯いた。

「お務め第一という君の心掛けは有難い。まわりに心配をかけとうないという気持ちもわかる。折を見て養生ができるよう計らうでな。ともかく今は無理をするな。君の剣は新選組の宝だ」

(④pp.236-237)

 

シーーーーーーーーン………………誠に死ななあかんか、芹沢先生は………?んなこたァあるめえよ…なんとかする。ワシがなんとか救うよ…お梅ちゃんと一緒に辻籠に乗せて、どこか遠くにお連れするから、誰にも知られずにひっそり生きてくれんかね……でもきっとそういうことじゃないんだよな、あの血と汗にまみれた乱世だからこそ燃え上がる恋情なのであって…というか山田担しか読んでいない記事でこんなに長々と芹沢先生の話をしてすみませんね……

 

そして、計画通り芹沢先生を斬り、喀血し(この作品では、ここで喀血するんですね!都合よく使われる喀血シーン…)、満身創痍で庭に寝転んだ沖田きゅんは、雨に洗われた刃に自分の顔を映して飽かず眺めるのです。

己のまことの強さは、斬られた者にしかわからぬのだから、実は誰も知らぬのと同じだ。この刃に映るものは、千年の武士の世に突然顕れた、奇蹟の剣士の顔。そして人ならぬ鬼の貌。

(④p.291)

鋭い自覚ーーーー!!!!自意識ーーーー!!!!歴史上の名だたる剣豪たちと剣を交えても、きっと負けない(なぜかちょっと切なそう)、とか思ってるんですよ。

あまりにも強すぎる、天才ゆえの苦悩。

別に、「誰かいい加減俺を負かせてみろよ!」とかキモいこと思ってるわけじゃないんですよ。泣く子も黙る新選組沖田総司が他人の剣に倒れるなんて、まっぴら御免でしょう。

ただ「孤独」は感じていると思います。肩を並べて切磋琢磨するライバルがいないって、寂しいことです。ヘッドピンのようにひとりで一歩前に出て、前にも横にも誰も存在しない状態で観客を魅了する山田くんの姿に重なるよ…。

 

司馬先生の書籍が執着と美学の煮詰まった漢の匂いに酔いしれるためのものなら、こちらは、あたたかい人情と華やかなおしろいの香りに呑まれるような作品です。

それにしても、やはり歴史というものは、男と女の両方が絡まり合って紡ぎ出すものなんですね。司馬先生の作品を読んでいると、女性たちは男たちに翻弄されたほんの付属品のような気もしてくるのですが、実際のところ豪胆な剣士たちの肝を握り締めているのは彼女たちなのかもしれません。

 

新選組 幕末の青嵐

直木賞受賞作家、木内昇先生の作品です。

 

司馬先生の「燃えよ剣」がとてもお好きだとのことなので、本作執筆にあたっても、大いにインスパイアされているはずです。

こちら、時系列に忠実で、ちゃんと時は進んでいくのですが、エピソードごとに語り手が変わる形式なんです。おもしろいでしょ?芹沢鴨が語る壬生浪士組藤堂平助が語る池田屋事件、など。おもしろいでしょ??!?ちなみに沖田くんは、自分の幼い頃のエピソードや山南先生の脱走事件などの語り手を担当しています。

 

沖田くんにまつわる表現の中で特に感銘を受けたものがあるので、ご紹介します。

 

私の周りはいい人ばかりだな、と惣次郎はしばしば思う。(略)世の中は、ぼんやりと眺めているだけで十分に面白かった。試衛館に住み込むようになって、剣術に明け暮れて、多くの剣客たちに出会って、よけいに視界に入ってくる景色が明るくなった。言葉がうまく通じないときは多いけど、言葉がなくともわかり合える人が、剣をはじめて随分増えた。たとえ不運でも決して不幸ではない、ということを自分でちゃんとわかるようになった。

(⑤p.40)

 

う〜〜〜〜〜〜〜〜ん、沖田総司の人生……(恍惚の唸り声を上げながら奈落の底へ)

彼は確かに、幼い頃に両親を亡くし、貧乏暮らしも経験して、家にもなんとなく居場所が無くなるという、いわゆる"不遇な"子供時代を送ったかもしれません。それでも、"不幸"ではない。彼にとっては、木々のざわめきや小鳥のさえずり、道場で剣が擦れ合う鋭い音、隊士同士のくだらない小競り合い、土方さんが皆に隠れて紙に筆を走らせる姿、それらすべてが儚く美しく、愛おしく、おもしろいものだった。

たとえ若くして肺を病み、大好きな剣を握ることさえできなくなっても、沖田総司という男は絶望を知らない。「なんて素晴らしい世界なんだ……!」と笑っているんです。

その証拠に、物語の後半、病床の沖田くんを見舞った元祖天然理心流メンツが、いよいよ雲行きが怪しくなってきた幕府の行く末や自分たちの身の上を論じ合っているさなか、暗い話題にふと顔を曇らせてしまった沖田きゅんを見て、井上さんは大焦りするのです。

 

井上はとっさに、沖田を落胆させてはいけない、と思った。この青年が落胆したら、そのときこそすべての希望が絶たれてしまう気がした。本当に自分たちが終わってしまう気がしたのだ。

(⑤p.465)

 

すっかり弱ってしまって尚、沖田くんは「希望」の象徴なのだ……この人は『太陽のような人』どころか、日の昇る『東』という方角そのもののような人だ…あなたに会えて良かった…あなたには希望の匂いが、する……(歌い出す私の中の和田アキ子)

 

というわけで、この作品。

語り手の剣士たちが複雑な内面を吐露しながら時間が進んでいくので、有名な事件がそれぞれ極めて自然な流れで起こります。突発的な激しさは無いけれど、各登場人物や決定的な出来事がすべて緻密な糸で縫い合わされ、緩やかな坂を転がり落ちていくような感覚を味わえます。

新選組血風録がお好きな方には特におすすめ。「燃えよ剣」では内面がクローズアップされなかったミステリアスなキャラクター(齋藤一とかね!)の心の奥底をまさぐることができるんですよ…!キャー!今すぐ読んで!

 

キャストのこぼれ話

インタビュー記事が掲載されている雑誌類はほとんど読みましたが、最初に言います。内容の濃さの点では「キネマ旬報」の右に出るものはありませんでした。

 

まあ映画雑誌の代表ですからね…。なんかもう全部ネタバレしちゃってるんじゃないか…?と心配になるくらい旨みぎゅうぎゅう詰めの記事でした。どうもありがとうございます。

 

山田くん、時代劇も殺陣も今回が初挑戦。

しかも"超"がつくほどのベテラン揃いの原田組。こちらとしてはただぼーっと「山田くんならなんだかんだ言っても余裕っしょ!」とか阿呆みたいな決めつけをするばかりだったのですが、本人はかなりプレッシャーを感じていたよう。

でも、現場ではまさに本物の沖田きゅんのように飄々とした様子だったそうですから、恐ろしい人。岡田師範ともお互い役名で呼び合う関係性だったようですね。岡田師範に「総司!」って呼ばれて返事する山田きゅん、どういう尊さ………?

そして、殺陣初挑戦にも関わらず、なんと"沖田総司"役ですよ。

鈴木さん演じる近藤勇や伊藤さんの芹沢鴨、そして岡田師範の土方歳三と同等、いや、勝たねばならない。実際に戦えば山田くんはさすがに岡田師範に負けるでしょうが、土方よりも沖田の剣が上なわけですから、スクリーンの中では師範よりも強く見せなくちゃならない。あっしなら絶対に無理だね………(でしょうね)

岡田師範曰く、山田くんは真面目で、器用で、センス抜群。

これら、山田担なら必ず頷けるところだと思う。ライブでの魅せ方やセルフブランディングの様子を見ていても、目がチカチカするほど眩く、言葉を失うほど圧倒的な力で常に546186379169115519点満点を叩きつけて颯爽と去っていくじゃないですか。

そればかりでなく、師範をして「千年に一度の逸材」と言わしめています。今から千年前となると平安時代ですから…そこから現在、令和に至るまで、山田涼介ほどの逸材は出ていないということになりまして……いやはや……

一方「1000人に1人の逸材」と表現している雑誌もあるんですよ。どっち??!?(どうでもいい)だって千年と1000人じゃ全然違うじゃんね!??(だからどうでもいいから)

個人的には前者で決定です。

しかも岡田師範、「山田くんにならいつか倒されても良いかな」なんて言うんですよ。なんですかそのエロティックな関係性…ずるい…


そして、沖田総司は肺を病んでいるので、病的な痩せ方をしているはず。

山田くん、完璧に仕上げてきましたね。予告映像を見て震えあがりました。

8kg余りの過酷な減量については、本人も数々のメディアで語っています。鈴木さんと岡田師範のご指導のもと「水抜き」という方法を実践したそうですね。読んで字のごとく、体内の水分を極限まで抜く方法なので、短期間でサクッと終わらせる必要があり、長く続ければ死ぬ。いやいや(笑)ちょ、勘弁してくださいよ(笑)ぷるっぷるお肌とフォーチュン♡リップが干上がって、ガラガラ声になったらどうしてくれるんです!?当時異様に痩せ始めて山田担唖然でしたよね……。

最期のシーンを撮影した翌日に殺陣の撮影があったようで。あまりにも体力が落ちていて力が入らず、結果的に動きが鈍くなってしまい、監督に軽く叱られたとのこと。そんなことになっていたなんて…あたしの見ていない間に… 


それから山田くん、恐ろしいほどに「美しさ」を追求しています。どれだけ人を斬ってもはだけない着物、とにかく一糸乱れぬ所作、病に蝕まれた肺から込み上げてくる咳のひとつに至るまで…。

山田くんが沖田総司について「『こほ』と出てくる自分の吐血さえよけるようにしないと」(⑥p.12)と述べていたのを知った時、正直、言いようのない悔しさを覚えました……(泣きながら畳を叩くイマジナリー隊士の絵文字)

沖田が自分の喀血をよける、そんな描写は原作には一切無いんですよ。だから思いも寄らなかったけど、言われてみれば、本物の沖田なら確かにそうするだろうと思った。当時の山田くんは死ぬほど忙しい時期だったし、沖田総司だけに割ける時間もそれほど無かっただろうに、そこまで、まさに想像の先の向こう岸まで、山田くんはたどり着いている。もう、彼は沖田に憑依されているんだと思う。沖田総司はキモオタクの私じゃなくて、山田涼介を選んだんです。山田くんにしか聞こえない沖田くんの声があるというか…内緒話を打ち明けているような感じかな。そこ!沖田総司と山田涼介!こそこそ話するのやめなさい!!!

山田くんっておそらく自分が途方もなく美しい存在であるという自覚があると思うのですが、沖田総司というキャラクターを自分と同格程度に美しい人間と捉えているような気がする。


作品関連のインタビューや雑誌などに触れて思うに、山田くんの演じた沖田総司は、原作の沖田総司よりもはっきりと自己主張するし、大人びていて、我が強い部分があるかも。これはあくまで予想ですが。ほんわかふわふわしていて雲のように掴めない、という要素は薄まっていそう。これは原田監督ならびに山田くんの判断と、小説を映画にする段階で不可欠な変圧によるところだと思います。

脱走した山南さんを追えと命じられた時も、「逃がすかもしれませんよ?」と土方さんを挑発するらしく、私からすると、それはもう沖田総司じゃないじゃんみたいな話になってくるんですが、これは私の利己的な解釈。

製作陣のみならず、沖田総司という役そのものによって選ばれた山田涼介の、いち俳優としての解釈とお芝居が楽しみ。こちとら映画館の椅子からずり落ちる準備万端。

 

原田監督山田担説

原田監督が今回山田きゅんにオファーをしたきっかけは、『グラス・ホッパー』だったそうな。あの伝説の、蝉さまですね。確かにあれを見ると、たとえ時代劇や殺陣の経験が無くとも、沖田総司をこなせるだろうと思いますよね。

実際、少しの指導でめきめきと力をつけて、見えないところでの自主的な努力も怠らない彼の姿勢を原田監督は惜しげもなく賞賛しています。そうでしょうとも……そこは我らがエースですもの…岡田師範の家にある道場(家にある道場!?)で稽古をしたら本当に「沖田総司の三段突き」ができるようになっちゃったし、おまけにマナーも良く、ものの考え方もディープだと。完全無欠じゃん。何かできないこと無いのかよ!

 

原田監督はとても厳しいと有名なようですが、山田きゅんのことは随所でバチクソ褒めちぎってるんですよね…なんか多分………多分ですけど……山田涼介にベロベロに惚れている可能性ない……?もしかしてライブ連番したいかな…?4連とかでよければ全然歓迎するけど…

山田くんの沖田総司を主役にしたスピンオフ作品を2度でも3度でも作りたい、とか仰ってるんですよ。

良いじゃん!!!!!やろうよ!!!!協力するからさ!!!!(誰)

沖田総司のスピンオフとか本気で需要しかないでしょ。沖田総司は元来ひときわ人気なキャラクターですからね。誕生から逝去まで全部密着してくれ。貧乏だった幼少期、家督を継げず放り出され、自らの身を立てる策を練った日々、剣や同志との出会い、京に燃える血、淡い恋、故郷への郷愁、同志への愛、病と死への諦観……全部鮮やかに描き出してほしい。山田くんの沖田総司を永遠に見ていたい。まだ予告でしか見てないけど。

 

原田監督のお話をもっとたくさん伺いたいし、今後もきっと機会は増えてくると思うけど、現時点で、山田担としてあまりにも感激してしまったお言葉がありまして。

「吐く息、吸う息が沖田でしたから」

という表現。きっとそういう意味合いで仰ったわけではないと思うけど、肺を病んでいる沖田総司にとって『息』とは格別な存在だと思うんです。京にのぼった頃にはまだ深く穏やかだった息が病によって次第に浅くなり、やがて咳に変わり、血が混じる。健康な人なら当たり前すぎて気にも留めない「呼吸」という動作は、沖田くんにとっては時に難しいもので、周囲に悟らせないように抑えてはいるものの、激しい戦闘の際には肺が大きく波打ち、乱れてしまう。

要するに彼の『息』は命の砂時計のような役割を果たしているわけだけど、もしかしたら山田くんはそこまで表現しきってしまっていたのかもしれない。こわい。

 

そしてもう一つ。

俊敏な剣技も、儚げな微笑みも、土方との軽やかな会話もすべてが『スクリーン上の沖田総司であるべき人』のベクトルを指している

『スクリーン上の沖田総司であるべき人』…これなんですよ……

山田くんは本物の剣豪でもないし、もちろん沖田総司その人ではない。映画の中で沖田総司を演じた俳優なのです。

どれだけ剣を使えても、たとえば沖田総司の本物の血縁者であっても、スクリーン上で「薄命の天才美剣士」を演じられるかといえばそうではない。全くの別問題。

山田涼介といえば、スクリーン映えする華やかな美貌と憑依的な順応性、長らくジャニーズとして培ってきた「魅せる」技術、そして生まれ持ったセンスの良さをすべて兼ね備えている。もう文句のつけようがない……まさに、スクリーンの中で沖田総司たりえる人。時代は、山田涼介というスターの誕生に感泣すべきである。

 

出陣前待機命令

ところで、ちゃんと公開するんでしょうねえ!?!??(泣)

もう10月15日まで全人類家から一歩も出ないで下さい。急なクラスターとか困りますので、本当に。

昨年公開延期になった時は「スキャンダルからのお蔵入りを防ぐため公開までキャスト全員自宅待機でお願いします」とか思ってたもんだが、今のところそちらは大丈夫そうね…助かりましてよ!

拙者、予告編を誦じている成人女児。

うちにある着物用の羽織をファサッ……て脱ぎながら「新選組副長土方歳三…………」っつって遊んでるんだよ、ひとりで。

世間は、こんなに楽しみにしている成人女児を落胆させないでくださいませ…

何事もなく公開されることを神様仏様にお祈りし……というのはね、あまり好かないのですよ。何しろ新選組「救うも救われぬも、神仏は自分の腰間の剣のみ」というモットーを持っていますから。燃えよ剣を邪魔するものはすべて私が叩っ斬ります。

 

「男の一生というものは」と、歳三はさらにいう。「美しさを作るためのものだ、自分の。そう信じている」(②p.86)

山田担のみんなも、気の遠くなるような宇宙の歴史の中でたった一度きり、山田くんと共に存在できる今世を祝福し、己の美しさを作って参りましょう。

 

それではみなさまご機嫌よう。

京で会いましょう!(ムビチケをヒラヒラ振りながら)

 

------------------------------------------------------------------

文献一覧

※当記事でご紹介した順です。

司馬遼太郎(1972)「燃えよ剣(上)」株式会社新潮社.

司馬遼太郎(1972)「燃えよ剣(下)」株式会社新潮社.

司馬遼太郎(2004)「新選組血風録 新装版」(第三版)株式会社角川書店.

浅田次郎(2007)「輪違屋糸里 下」株式会社文藝社.

木内昇(2009)「新選組 幕末の青嵐」株式会社集英社.

⑥三浦理高他(編)(2020)「キネマ旬報 2020年5月上・下旬合併号 No.1837」株式会社キネマ旬報社.